2025年4月から5月上旬にかけて、生成AI開発プラットフォーム「Dify」には多数のアップデートが行われました。以下、Dify全体(Dify Studio、Dify Chat、Dify Flow など各コンポーネントを含む)の主な更新内容を時系列で整理します。
2025年4月1日: Zapier連携(MCPプラグイン)
Model Context Protocol (MCP) に対応したZapier連携プラグインが追加され、Difyエージェントから数千種類の外部アプリをシームレスに操作できるようになりましたdify.ai。Anthropic社が提唱する標準仕様MCPを介し、Zapier上の7,000以上のアプリ・30,000以上のアクションをDifyのワークフローから直接呼び出せますdify.ai。これにより、メール送信やCRM更新、Slack通知などマーケティング自動化を含む多様なタスクをLLMエージェントに実行させることが可能となり、Difyエージェントの現実世界への接続性が飛躍的に向上しましたdify.ai。
2025年4月2日: 教育機関向けプログラム「Dify for Education」
Difyは教育分野への普及を目指し、「Dify for Education」プログラムを開始しました。世界中の教職員や学生に対し、LLMアプリ開発基盤一式を50%割引で提供する試みですdify.ai。高度なAI技術を一部の企業だけでなくあらゆる教育現場で利活用できるようにすることが目的であり、情報格差の解消と未来の人材育成を支援する取り組みとなっていますdify.ai。
2025年4月9日: Dify v1.2.0 リリース
Difyプラットフォームのバージョン1.2.0がリリースされ、多数の新機能・改善・バグ修正が導入されましたgithub.com。特に**Dify Flow(ワークフロー機能)**の強化が顕著で、繰り返し処理や外部データ検索など自動化関連の機能が向上しています。主な変更点は以下の通りです:
- ループノード(Loop Node)の導入: ワークフロー内で簡潔に繰り返し処理を実装できる新ノードを追加しました。従来の複雑なIterationノードを置き換えるもので、少ない手順で多数の項目に対する処理を実行でき、自動化効率を大幅に向上しますgithub.com。開発チームによれば、このLoop Nodeは「より少ない手間でより多くの処理を可能にする」ゲームチェンジャーですgithub.com。
- 「子チャンク (Childchunk) API」の追加: ワークロードの柔軟性を高める新APIが追加されましたgithub.com。これにより、大規模データ処理時の分割管理が容易になります。
- OceanBaseハイブリッド検索の統合: 分散型データベースOceanBase向けに、キーワード検索とベクトル検索を組み合わせたハイブリッド検索機能を提供github.com。従来よりも強力なクエリが可能となり、検索精度とデータ利活用が向上しています。
- チャットWebアプリの入力編集対応: Dify ChatのWebアプリにおいて、会話開始後でもユーザー入力を変更できるようになりましたgithub.com。これによりチャットボットとの対話フローが柔軟になり、誤入力修正や追加情報の入力が可能です。
- Langfuse LLMノード強化: LLM監視サービスであるLangfuseとの連携ノードが入出力対応強化されましたgithub.com。
- 新たなベクターデータベース対応: Alibaba CloudのTablestore(OTS)をベースにしたベクトルデータベースをサポートしましたgithub.com。企業向けストレージへの接続性を拡大し、データに高度な検索能力を付与します。
- ナレッジベース統合の拡充: 新たに WaterCrawl.dev がナレッジベースプロバイダとして利用可能になりましたgithub.com。ウェブクローリングによるデータ収集を組み込めます。
- プラグイン管理の改善: OSS環境構築向けにプラグインデーモン(Plugin Daemon)の環境変数設定を追加し、プラグイン管理の柔軟性を向上しましたgithub.com。
- メタデータ機能の改善: RAG(Retrieval-Augmented Generation)機能に関連するメタデータの扱いを強化。メタデータの変数値の不具合修正やフィルタ機能の改善が行われ、データ検索とアクセス制御の精度が向上しましたgithub.com。
- UI/UX改善: モバイルレイアウトの崩れの修正github.comや、グラフ表示のテキスト間隔の調整github.comなど、様々な画面表示の微調整によりユーザー体験の向上が図られていますgithub.com。ドロップダウンの角丸調整など細かな統一も行われましたgithub.com。
- 多言語対応強化: ナレッジベースAPIへの日本語(ja_JP)サポートが追加されgithub.com、グローバルユーザーへの対応を拡充しました。また前述のTablestoreデータベース対応もあり、多言語・多地域での利用を見据えていますgithub.com。
- セキュリティと安定性の向上: LLMプロバイダの認証情報読み込みエラーを修正github.comし、接続の信頼性を高めました。さらにデータベース内のワークフロー実行ログインデックスの最適化など、パフォーマンス改善にも取り組んでいますgithub.com。
- その他の修正: 翻訳の欠落やアカウントエラー、一部機能名の不一致など多数の不具合修正が行われましたgithub.com。加えて、教育用APIの導入(教育向け統合機能)も試験的に行われていますgithub.com。
≪影響範囲≫: 以上の変更により、Dify Flow(ワークフロー機能)が大幅強化されたほか、Dify Chatの使い勝手向上、ナレッジベース・プラグイン拡張、UI改善、セキュリティ強化などプラットフォーム全体にわたるアップデートとなっています。
2025年4月14日: MCPサーバープラグインの公開
4月1日に紹介されたMCPクライアント側連携(Zapier活用)に続き、MCPサーバー機能もDifyに統合されました。新たに公開された「mcp-serverプラグイン」を用いることで、任意のDifyアプリをMCP準拠のサーバーエンドポイントとして動作させることができますdify.ai。これにより外部のMCPクライアント(他のAIエージェントなど)からDify上のワークフローやツールを直接呼び出すことが可能となり、Difyが他システムから汎用AIツールサーバーとして利用できる柔軟性が生まれましたdify.ai。MCPを介した双方向連携で、Difyを中心としたエコシステム拡大が期待できます。
2025年4月17日: InfraNodus統合によるチャットボット強化
Dify公式ブログでは、InfraNodusとの統合を活用してチャットボットのQ&A性能やアイデア創出を強化する方法が紹介されましたdify.ai。InfraNodusはナレッジグラフ分析ツールであり、情報の構造的な抜け漏れから新たな質問を自動生成することで対話を深めることができますdify.ai。この統合により、Dify上のチャットボット(Dify Chat)がより洞察的な質問を投げかけたり、ユーザーの曖昧な要求から関連トピックを見出してアイデア提案を行ったりすることが可能となりました。知識グラフにもとづく高度なQ&Aで、チャットボットの応答品質と創造性が向上しています。
2025年4月23日: Dify v1.3.0 リリース
4月下旬にはDify v1.3系のメジャーアップデートが行われ、バージョン1.3.0がリリースされました(4月23日公開)github.com。このバージョンでは新機能の追加と全体的な改善に焦点が当てられ、開発ワークフローの効率化やUI/UXの向上が図られています。主要な変更点は以下の通りです:
- LLMノードでの構造化出力サポート: Dify Flowのワークフロー中で利用する「LLMノード」において、AIモデルから返されるデータを構造化出力として扱えるようになりましたgithub.com。これにより、モデル応答をJSONなどの決まったデータ構造で受け取り、後段の処理で容易に解析・利用できますgithub.com。開発者はこの機能を使って、AIエージェントをまるでAPIのように利用することが可能になります。
- プラグイン更新通知機能: Dify Studio上のUIにて、インストール済みプラグインに新バージョンがある場合に更新インジケーターが表示されるようになりましたgithub.com。これにより、ユーザーはプラットフォーム内からプラグインのアップデートを見逃さず適用でき、常に最新機能やバグ修正を取り入れることができますgithub.com。
- トークン使用量カウントの改善: AIモデルの利用トークン数に関する取り扱いを変更しました。LLMプロバイダから使用量が返されない場合はデフォルトで「0」と見なすようになりますが、代替手段としてトークナイザによる見積もりもオプションで有効化可能です(環境変数
PLUGIN_BASED_TOKEN_COUNTING_ENABLED=true
を設定)github.com。ただし後者を有効にするとパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があるため、デフォルトでは無効になっていますgithub.com。 - ワークフローの画像エクスポート: Dify Flowの設計画面で、作成したワークフローを画像としてエクスポートできる機能が追加されましたgithub.com。これによりワークフローの共有が容易になり、設計内容をチームメンバーと視覚的に共有したりドキュメントに貼り付けたりできます。
- Mermaidダイアグラム解析の最適化: ワークフローの図示等で用いられるMermaid(Markdownベースのダイアグラム記法)の解析処理が高速化・最適化されましたgithub.com。複雑なフローチャートの表示パフォーマンスが向上し、開発者のストレスが軽減されています。
- Pythonパッケージ管理の変更: バックエンドのPython環境において、パッケージマネージャーを従来のPoetryから
uv
(UltraView?※)に変更しましたgithub.com。これにより依存関係の解決やインストール処理が高速化され、開発時のビルド時間短縮やマージ競合の減少といったメリットが得られていますgithub.com。(※uv
は高速なPythonパッケージ管理ツールとして導入) - アプリ作成ダイアログの操作性向上: アプリケーション新規作成時の各種ダイアログ画面において、一貫したキーボードショートカットのサポートと視覚的インジケーターの追加が行われましたgithub.com。例えば「新規ワークフロー作成」ダイアログ内でEnterキー決定などが統一され、開発者はよりスムーズに操作できます。
- ワークフロー監視機能の強化: ワークフロー実行のオブザーバビリティ(可観測性)向上のため、OpenTelemetryによる分散トレーシングを統合しましたgithub.com。さらにHTTPレスポンス処理でメトリクス(処理時間など)が収集されるようになり、複雑なワークフローのデバッグや性能分析が容易になっていますgithub.com。
- 型安全性の向上: 内部コンポーネント(例: プラグイン一覧UIなど)での型定義を見直し、TypeScriptによる型チェックを強化しましたgithub.com。その結果、開発内部の信頼性が増し、今後の変更による不具合発生を減らす土台が整っていますgithub.com。
- 多数のバグ修正: 全体としてUIの細かな不具合修正やレイアウト調整が多数行われました(例: ワークフロー実行パネルのリサイズ問題やクリックジャッキング防止の改善など)github.com。また、会話ログ取得で発生し得たサーバーエラー(HTTP 500)の問題を修正し、Dify Chatでの対話履歴が安定して取得できるようになっていますgithub.com。
- 言語ローカライズの更新: 日本語翻訳の改善と、プラグインのロケールパラメータサポートが追加されましたgithub.com。ドイツ語の日付フォーマット不整合も修正されgithub.com、各国ユーザーに対する細部の品質が向上しています。
- その他の改善: Git操作の最適化(不要データ層の削減によるチェックアウト高速化)github.comなど、開発フローを支える裏方の改善も行われています。
≪影響範囲≫: v1.3.0へのアップデートにより、Dify FlowでのLLM出力活用やワークフロー共有が容易になり、Dify Studio上の操作性や開発者向けの観測性が向上しました。また、Dify Chatを含む全体の安定性・セキュリティ・多言語対応も強化されており、Difyプラットフォーム全般の信頼性と使いやすさが底上げされています。
2025年4月28日: Dify v1.3.1 リリース
v1.3.0からわずか5日後の4月28日には、主に細部の拡張と不具合修正を目的としたバージョン1.3.1がリリースされましたgithub.com。LLMOps(大規模言語モデル運用)の実務を支援するアップデートが中心で、以下のポイントが含まれます。
- VTTドキュメント抽出対応: ナレッジベースのドキュメント取込機能が強化され、VTT形式(ビデオ字幕テキスト)のデータをサポートしましたgithub.com。これにより、音声や動画の文字起こしデータを直接知識として取り込んで活用できます。
- ストレージ管理機能(管理者向け): プラットフォーム管理者が未使用ファイルのクリーンアップによってストレージ容量を回収できる機能が追加されましたgithub.com。不要データの整理が容易になり、長期運用時のディスク節約やコンテンツ管理が効率化します。
- Vastbaseベクターデータベース対応: 新たにVastbase(ベクトルデータベース)とのシームレスな連携に対応しましたgithub.com。これにより、高速なベクトル検索や類似度計算をDify内で活用でき、特に大規模データを扱うAI検索/分析アプリの性能が向上します。
- タイムゾーン対応の改善: フロントエンド(UI)側でタイムスタンプのタイムゾーン表示に対応しましたgithub.com。これまではサーバー時間で表示されていた箇所も、ユーザーのローカル時間で正しく表示されるようになり、ログや履歴の把握が容易になります。
- 埋め込みチャットボットの操作性向上: 外部サイトに埋め込むチャットボット(Dify Chatウィジェット)において、ドラッグ&ドロップ操作の互換性と安定性が向上しましたgithub.com。マウス操作だけでなくタッチ入力にも対応し、ファイル添付などの直感的な操作がスムーズに行えます。
- ナレッジベースへのフォルダ一括アップロード: 知識データ管理において、複数ファイルを含むフォルダをまとめてアップロードできるようになりましたgithub.com。大量のドキュメントを扱う際の作業効率が大幅に向上します。
- バグ修正(プラグイン順序設定の適用):
position.yaml
で定義したモデルプラグインの実行順序設定が正しく適用されない不具合を修正しましたgithub.com。これにより、意図した順序で複数モデルを組み合わせて使えるようになります。 - 認証と自動入力の修正: OAuthなど認可系プラグインの画面で、ブラウザのパスワード自動入力機能が誤作動する問題を解消しましたgithub.com。不要なフィールドへの自動入力が防止され、プラグイン設定時の混乱が減ります。
- テンプレート読み込みエラー修正: アプリのテンプレートをインポートする際に発生していたエラーを修正しましたgithub.com。既存テンプレートから新規アプリを作成する機能が安定して利用できるようになります。
≪影響範囲≫: v1.3.1アップデートは、ナレッジベース管理(ファイル取込やデータベース連携)の利便性向上、Dify Chat埋め込みのユーザビリティ改善、プラグイン機能の信頼性向上など、運用面での細かな品質改善が中心です。特にエンタープライズ環境で重要となるストレージ最適化やタイムゾーン対応など、現場運用者に嬉しい強化が含まれています。
2025年4月30日: Palo Alto Networks社のAIセキュリティプラグイン
DifyマーケットプレイスにPalo Alto Networks (PANW)社の「AI Runtime Security」プラグインが新規追加されましたdify.ai。このプラグインを使用すると、あらゆるエージェント/チャットフロー/ワークフローの前段に業界トップクラスのセキュリティエンジンを配置できdify.ai、ユーザーからの入力やモデルからの出力をリアルタイムで検査・フィルタリングしますdify.ai。例えばプロンプトインジェクション攻撃やデータ漏洩に繋がる出力を検知してブロックするなど、AIアプリケーションにおける第一の防御線として機能しますdify.ai。エンタープライズ向けの堅牢なセキュリティ層が簡単に組み込めるようになったことで、開発者はセキュアでコンプライアンス遵守なAIアプリをより安心して構築・運用できるようになりましたdify.ai。
2025年5月上旬: X(旧Twitter)プラグインの提供開始
Dify公式マーケットプレイスにて、X(旧Twitter)連携プラグインが新たに公開されました。これによりDifyのワークフローからTwitterの投稿を自動化することが可能です。具体的には、本プラグインを使うことでテキスト投稿、画像・動画付き投稿、およびツイート削除といった操作をDify上から直接実行できますnote.com。外部APIキーを設定すれば、作成した記事をAIに要約させてツイートしたり、RSSフィードから抽出した最新情報を自動投稿するといった応用も容易に実現できます。これら一連の機能追加に関する案内はDify公式Xアカウントから発信されており、ソーシャルメディア連携の強化によってコンテンツ配信の自動化とユーザーエンゲージメント向上が期待されています(公式発表: “A new X plugin is now available in our Marketplace! Automate your X strategy with Dify AI Workflows: post/delete tweets (text & media)…”x.com)。
各アップデートの詳細は公式GitHubのリリースノートやDifyブログの記事に記載されています。以上のように、2025年4月から5月上旬にかけてDifyプラットフォームはワークフロー機能の強化、プラグインエコシステムの拡充、UI/UXと運用性の改善、セキュリティの向上など多方面で進化を遂げています。github.com今後も最新リリースノートを参照しながら活用することで、Difyの豊富な新機能を最大限に活かすことができるでしょう。