2026年10月8日 改訂 旧版の記載を公式資料と照らし合わせ、次の点を直しました。 – 「社内で140以上のAIアプリ」という記述は、公式資料では確認できなかったため削除しました。 – 「サイスケが月20万件の日程調整を自動化」は誤りでした。20万件は、社内で1か月に作られる予定のおおよその件数です。 – 「月6万時間の削減」は、2023年の発表で生成AI活用コンテストのグランプリに選ばれたツールについて示された見込みです。サイスケの実績として書いたのは誤りでした。 – 「広報・IRの作業が1時間から15分に」は、公式記事では「ある部署の議事録作成」の例でした。広報・IRの事例は時間の数値なしで紹介されています。 – 博報堂DYグループとの協業事例、社員の声として載せていた引用、「圧勝」「競争優位」などの評価は、根拠を確認できなかったため削除しました。
この記事の確認範囲
この記事は、2026年10月8日時点でサイバーエージェントの公式サイトと公式技術ブログにある5本の資料を確認して書いています。数値ごとに、それが実績・見込み・目標・アンケートに基づく効果のどれなのかを書き分けました。
前半は「公式資料で確認できたこと」、後半は「そこから筆者が考えた小規模導入の進め方」です。後半はサイバーエージェントの手法そのものではありません。筆者が試して確かめた結果でもありません。後半の社内FAQの例は、説明用に作った架空の事例です。
はじめに:大企業の事例は、そのまま真似できるのか
生成AIの社内活用事例を読むと、「月○万時間削減」のような大きな数字に目が行きます。ただ、その数字が実際に測った結果なのか、導入前の見込みなのかで、意味は大きく変わります。読み違えたまま自社の計画に使うと、期待と結果の差に苦しむことになります。
この記事では、まずサイバーエージェントの公開情報を「何が、いつ、どの範囲で言われているか」に分けて整理します。そのうえで、自社で始めるなら何をどの順番で試すかを、架空の社内FAQを例にしたワークシートの形で紹介します。対象は、社内の業務改善を担当する方や、生成AIの導入を任された非エンジニアの方です。
次の図では、公開情報を事実・数値の性質・本記事での扱いの順にたどり、筆者の提案とどこで分かれるかを示します。

図1:数値の性質を見分けてから、自社に使える部分を取り出す
前半:公式資料で確認できたこと
2023年10月:組織を作り、目標を先に掲げた
サイバーエージェントは2023年10月18日、生成AIの活用を進める組織「AIオペレーション室」を新設したと発表しました。発表では、現在のオペレーション業務を2026年までに6割削減することを目的に挙げています。これは発表時点の目標です。達成したかどうかを示す公式発表は、今回の確認範囲では見つかりませんでした(サイバーエージェント 2023年10月18日発表)。
同じ発表では、社内の生成AI活用コンテストに約2,200件の応募があったことも紹介されています。グランプリは、強化学習でスケジュールを自動調整するツールでした。このツールには「月間6万時間の時間削減を見込む」と書かれており、これは見込みの数値です。
2024年:全社のリスキリングと、その外部提供
2024年2月20日の発表では、社内向けの「生成AI徹底理解リスキリング」を、全執行役員を含む6,200名を超える社員が受けたと書かれています。ここでいう「受けた」は、講義動画の視聴とWebテストの合格を指します。同じ講座は、子会社のAI Shiftが2024年1月から外部向けにも提供しています(AI Shift 2024年2月20日発表)。
社内で作った研修を外部に提供している、というところまでは事実として確認できます。一方で、それがどれだけの収益になっているかは公表されていません。
2024年10月:予定調整アプリ「サイスケ」を全社に導入
2024年10月9日には、予定調整アプリ「サイスケ(Cyber AI Scheduler)」を自社で開発し、全社への導入を始めたと発表しました。社員がSlackのアプリに参加者と希望日時を入れると、AIが候補の日時を提案し、予定が決まると参加者に通知します(サイバーエージェント 2024年10月9日発表)。
発表には、社内で月間約20万件の予定が作られていると書かれています。予定調整の時間は「削減を見込んでいる」とされていますが、時間の具体的な数値は示されていません。
2025年5月:Difyを「申請から最短5分程度」で使える状態にした
公式技術ブログには、ノーコード(プログラムを書かずに画面操作で作る方式)のAIアプリ開発基盤「Dify」を全社に広げた経緯が書かれています(CyberAgent Developers Blog 2025年5月26日)。広げ方は、製品の使いやすさで利用を増やすプロダクトレッドグロース(Product-Led Growth)の考え方に沿ったものだと説明されています。
記事に書かれている流れを図にしました。全社向けのSlack告知から申請し、マニュアルや社内ガイドラインを受け取り、相談の場に入るまでが一続きになっています。

図2:公式技術ブログに書かれたDify全社展開の流れ(記事をもとに作った概念図で、実際の画面ではありません)
数値は次のように書かれています。
- 開始から6か月で社内のユーザー数は約1,800名弱になり、そのうち25%以上が毎週使うアクティブユーザーでした(実績)。
- 申請から最短5分程度で利用を始められる体験を目指して作られています(設計の説明)。
- 6〜7名程度を対象に、2週間ごとに個別開発を支援し、ハンズオン当日のアプリ完成を目指しています(運営方法)。
- 記事タイトルにある「3,000時間/月削減」は、図の説明によると2025年3月の社内ユーザー向けアンケートで調べた効果です。
アンケートの結果は利用者の自己申告をもとにしているため、作業時間を実際に測った値とは性質が違います。この点は読むときに分けておくとよいでしょう。
2025年8月:「5分でできる」小さな活用例から入る
公式オウンドメディアの記事では、社内に広めるときに「5分でできる簡単な活用例」から始めたことが紹介されています。例として挙がっているのは、議事録の要約やデータ分析です(サイバーエージェント 2025年8月5日)。
同じ記事には、ある部署で1時間かかっていた議事録作成が15分になり、部署全体で月15時間の削減につながった例があります。チーム単位で月20時間を生み出した例や、広報・IRチームが記事作成の流れを変えた例も紹介されています。どれも個別の部署やチームの事例で、全社の平均ではありません。
公式資料の数値を一覧にする
| 数値 | 出典・発表日 | 対象 | 性質 |
|---|---|---|---|
| オペレーション業務を6割削減 | 2023年10月18日 | 全社のオペレーション業務 | 2026年までの目標 |
| 月6万時間の削減 | 2023年10月18日 | コンテストのグランプリツール | 見込み |
| 6,200名超が受講 | 2024年2月20日 | 社内リスキリング | 実績 |
| 月約20万件 | 2024年10月9日 | 社内で作られる予定の件数 | 課題の規模 |
| 約1,800名弱・週25%以上 | 2025年5月26日 | Difyの社内利用 | 実績(開始6か月) |
| 月3,000時間 | 2025年5月26日 | Difyの利用者 | アンケートに基づく効果 |
| 1時間→15分、月15時間 | 2025年8月5日 | ある部署の議事録 | 個別の事例 |
旧版にあった「140以上のAIアプリ」は、確認した資料の本文には出てきませんでした。そのため一覧にも入れていません。
公開事例を自社に生かすときの注意
公開事例から持ち帰れるのは、数値よりも進め方の型です。今回の資料から読み取れる型は、目標を掲げる、学ぶ場を用意する、すぐ試せる入口を作る、相談先をつなげる、という組み合わせでした。
一方で、規模の違いには注意が必要です。社員数千人の会社で専任組織が回している仕組みを、数十人から数百人の会社でそのまま再現するのは現実的ではありません。そこで後半では、対象を1つに絞り、評価の方法を先に決めてから始めるやり方を提案します。
後半:筆者の提案 — 架空の社内FAQで「導入→評価→見直し」を回す
ここからは筆者の提案です。例として、従業員300人ほどの架空の会社を考えます。総務部に経費精算や備品についての問い合わせが毎日届き、同じ質問が何度も繰り返されている、という状況です。
社内規程をもとに答える生成AIのFAQを、総務部の中だけで小さく試します。次の図は、導入・評価・見直しを1周し、結果によって「広げる」「直してもう一度」「止める」に分かれる流れです。

図3:架空の社内FAQで回す小規模導入のサイクル(筆者の提案)
ステップ1 導入:対象と責任者を決める
最初に、どこまでをAIに答えさせるかを決めます。範囲が広いほど誤答の原因を追いにくくなるので、最初の1周は1つの規程に絞ります。
| 項目 | 記入例(架空) | 決める理由 |
|---|---|---|
| 対象の業務 | 経費精算の問い合わせ | 質問の型がそろっていて採点しやすい |
| 回答の根拠 | 経費精算規程(最新版のみ) | 古い版が混ざると誤答の原因になる |
| 使う人 | 総務部の5名 | 誤答があっても社内に広がらない |
| 答えさせないこと | 個別の承認判断・例外の扱い | 責任の所在が変わるため人が答える |
| 最終確認者 | 総務課長 | AIの回答の責任者を決めておく |
| 期間 | 4週間 | 評価と見直しまでを1周で終える |
サイバーエージェントの事例でも、利用を始めるときに社内ガイドラインが届く仕組みになっていました。規模は小さくても、「答えさせないこと」と「責任者」は最初に書いておくのがおすすめです。
ステップ2 評価:テスト質問を記録して数える
使い始める前に、実際によくある質問を20問ほど集め、AIの回答を採点します。生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を出すことがあります。特に金額や期限の誤りは見落とすと実害につながるので、正解の根拠がどこにあるかも書いておきます。
記録は次のようなCSVにします。中身は架空のサンプルです。
番号,質問,想定する根拠,判定,根拠表示,メモ
1,交通費の精算期限はいつですか,経費精算規程 第5条,正答,あり,
2,出張の日当はいくらですか,旅費規程 別表1,誤答,あり,古い版を参照していた
3,私物のPCを経費で買えますか,経費精算規程 第8条,保留,なし,担当者への案内は適切
「判定」は、正答・誤答・保留(AIが答えずに担当者へ回した)の3つにします。対象外の質問で保留になるのは、むしろ望ましい動きです。
集計は手作業でもできますが、毎週くり返すならスクリプトにしておくと楽です。Python 3の標準ライブラリだけで動くように書いています。ただし、筆者の環境での実行結果はこの記事に載せていません。
# faq_eval.csv と同じフォルダで実行する: python3 summarize_eval.py
import csv
from collections import Counter
counts = Counter()
cited = 0
total = 0
# Excelで保存したCSV(BOM付き)も読めるよう utf-8-sig を使う
with open("faq_eval.csv", newline="", encoding="utf-8-sig") as f:
for row in csv.DictReader(f):
total += 1
counts[row["判定"]] += 1
if row["根拠表示"] == "あり":
cited += 1
if total == 0:
raise SystemExit("評価データがありません")
for label in ("正答", "誤答", "保留"):
n = counts[label]
print(f"{label}: {n}件 ({n / total:.0%})")
print(f"根拠表示あり: {cited}件 ({cited / total:.0%})")
あわせて、試験期間中に総務部へ届いた問い合わせの件数と、担当者が回答の確認にかけた時間も記録しておきます。時間は自己申告でかまいません。ただし、前半で見たアンケートの数値と同じように、あとから「測った値」と混同しないよう、記録方法を書いておきます。
ステップ3 見直し:続ける・広げる・止めるを決める
4週間後、記録をもとに次の周回を決めます。判断の基準は、始める前に決めておくのが大切です。結果を見てから基準を決めると、都合のよい解釈になりやすいからです。次の表の基準は筆者が仮に置いた例なので、自社に合わせて変えてください。
| 結果 | 判断 | 次の周回でやること |
|---|---|---|
| 金額・期限に関わる誤答が1件以上 | 直してもう一度 | 根拠の文書を見直し、同じ質問で再評価 |
| 誤答はないが保留が多い | 直してもう一度 | 対象範囲や質問の書き方を調整 |
| 対象範囲の評価を通過し、確認工数の改善も確認できた | 限定的に広げ、再評価する | 旅費規程を追加、または利用者を部外に広げる |
| 確認の手間が手で答えるより大きい | 止める | 記録を残して終了。別の業務で再検討 |
20問で誤答がなかっただけでは、未知の質問への正確性は保証できません。範囲外の質問が適切に保留されるか、情報の閲覧権限を守れるか、規程改定後も答えが更新されるかを別に確認し、拡大後も人の確認を続けます。
「止める」も立派な結果です。合わない業務を早めに見つけられれば、次に試す業務へ時間を回せます。
つまずきやすい点
| よくある状況 | 原因として考えられること | 対処 |
|---|---|---|
| 規程が改定されたのに古い答えが返る | 根拠の文書が更新されていない | 文書の更新日を記録し、改定時に差し替える |
| 評価の結果が担当者によってばらつく | 判定基準があいまい | 「正答」の条件を1行で書いて共有する |
| 誰も使わなくなる | 入口が遠い・相談先がない | 普段使うチャットから開けるようにし、質問用の場を作る |
最後の行は、サイバーエージェントの事例で「すぐ試せる入口」と「Slackのコミュニティ」が組み合わされていたことを参考にしています。
まとめ
サイバーエージェントの公開資料からは、2026年までの削減目標、6,200名超の社内リスキリング、Difyの社内利用者約1,800名弱、個別部署での議事録作成の短縮などが確認できました。一方で、それぞれの数値は実績・見込み・目標・アンケートと性質が違います。並べて「成果」とまとめると、実態とずれてしまいます。
自社で始めるなら、対象を1つに絞り、評価方法と判断基準を先に決めて、導入・評価・見直しを1周してみてください。次の段階としては、評価用の質問を増やすことや、根拠の文書を更新する担当を決めることが考えられます。
参考リソース
- 生成AIで業務効率化を強化、「AIオペレーション室」を新設(サイバーエージェント、2023年10月18日)
- AI Shift、「生成AI徹底理解リスキリング」講座の新卒社員向け研修パッケージを提供開始(2024年2月20日)
- 月間20万件の予定調整を即時化する「サイスケ(Cyber AI Scheduler)」を自社開発・全社導入開始(2024年10月9日)
- サイバーエージェント社員の20%が使うAIプラットフォーム「Dify」、プロダクト主導で3,000時間/月削減する方法(CyberAgent Developers Blog、2025年5月26日)
- Difyで変わるサイバーエージェントの働き方 ~「5分でできる」から始める生成AI普及戦略(2025年8月5日)
- Dify 公式ドキュメント(日本語)

